高貴と信仰の象徴・アメジストは悪酔いも防いでくれるんです

実はアメジストは水晶の仲間。和名は“紫水晶”で、2月の誕生石でもあります。

アメジストは悪酔いを防げるといわれています。男性のネクタイピンやカフスボタンに頻繁に用いられるのが多いのは、こうした意味もあるのでしょう。

キリスト教に於いては、この悪酔いには人生も含まれ、人生の悪酔いを避けたい聖職者たちにも関連づけられ、高貴な《司教の石》として指輪が嵌められるようにもなりました。

これらの背景には、ローマ・ギリシャ神話伝説があります。

酒と豊穣の神・バッカスは悪戯が過ぎることで神々を悩ませていました。そしてその家来・バッケーたちは豹の姿で酔いしれる、善悪の判断が出来ない者たち。しかし、葡萄酒作りには長けていました。

ある日、バッケーたちのことで神々に叱りを受けたバッカスは、腹いせに恐ろしいことを思いつきます。「これから出会う最初の人間をバッケーたちに食いちぎらせてやろう」と…。

バッカスは月の女神・ディアナの神殿の前を通りかかった時、ディアナに仕えるニンフ(妖精)のアメジストの姿をみつけます。アメジストは信仰が深く、神々の自慢でもありました。

「ちょうどいい。私の家来の方が強いということを見せてやろう!」

バッカスはバッケーたちにアメジストを襲わせ、彼女は必死の思いで叫びました。

「ディアナ様ーっ!!」

瞬間、アメジストの身体はみるみると小さくなり、小さな美しい水晶に変わってしまいました。その姿の美しさにバッカスは正気に戻り、同時に自分の冒した罪の深さにその身を震わせて立ち尽くします。

「私の葡萄の実は未来永劫、アメジストへの懺悔となろう!」

そう叫びながら葡萄酒を水晶に注ぎました。するとどうでしょう!その美しい水晶は美しい紫色に染まっていったのです。アメジストの美しさに正気に戻ったバッカスの懺悔に、バッケーたちも狂気の酔いから醒めます。それからは彼らもバッカスの良い家来として葡萄酒作りに専念します。バッカスの行く先々には酒と豊穣の実りがあり、人々を喜ばせました。

宝石となったアメジストもまた、信仰のシンボルとして伝説となり、悪酔いからも醒めさせるとの伝説が生まれました。

豊穣には奉納の歌舞行事がつきもの。実はバッカスは演劇の神でもあり、アメジストは演劇関係者にも強い味方なんです。

この神話は16〜17世紀にかけて流行し、アメジストは《聖なる石》としてさらに人々を魅了しました。そのアメジストの精神を愛した一人の宮廷画家のお話もしましょう。

スペイン宮廷画家の名はベラスケス。多彩だった彼はこのアメジストの精神の如く、才能に溺れず、周囲の甘い誘惑にも惑わされず、時の王・フェリペに尽くし、王も彼の真摯さと才能を愛しました。やがて衣装係、さらに王室配室長と昇進したベラスケスは、王のために、アメジストで出来た一粒の葡萄の実が金とエメラルドの王冠を被っている宝石を王宮の宝石職人に作らせます。しかし彼はその完成を見ることなくこの世を去ります。宝石の完成は彼の死後、数ヶ月後のことでした。

王はベラスケスの生まれ変わりのように生まれてきた息子・カルロス二世にその宝石を譲った後、ベラスケスの後を追うようにこの世を去りました。

4歳で王位を継承したカルロス二世は、叔父であり義兄でもある、神聖ローマ皇帝レオポルト一世にこのアメジストを贈ります。こうして信仰のアメジストは深い信仰と豊穣をもたらしながら、ハプスブルク家に代々受け継がれていくことになります。

現在、ウィーンの美術史美術館所蔵となっています。

アメジストの宝石言葉は《誠実、心の平和/仏:真実》。宝石のメッセージは《何事にも用心/人生の悪酔いを排除》です。