遥か古より、月には不思議な力があると信じられてきました。

和名を月長石。陰のある青白い半透明の石の局面に浮かび上がって見えるのが特徴的で、この現象をシラー効果といいます。

これは余談ですが、同じ月長に属する宝石の中にはムーンストーンに対して、《サンストーン》というものもあります。これは名前の如く、太陽を象徴するような赤褐色で、和名も日長石となっています。

清楚で気品のあるこの姿に、愛好者は世界中に年々増えています。真珠同様に、デリケードな美しさと優しい乳光が魅力的な宝石です。また、ムーンストーンと真珠、どちらにも似たような伝承が多く残されています。

宝石言葉が《愛の予感》。宝石のメッセージが《悪魔を祓う/幸福》とされています。

ムーンストーンには数多くの言い伝えがありますが、月の力が宿り、夢魔や夜に出没する悪霊を祓う力があるということや、口に含んで願い事をすると叶うという言い伝えが有名です。

また、「古くから月が欠けた天体を元に戻すように、ムーンストーンは苦しんでいる人々から苦しみを取り除いて元に戻す。そしてこの宝石は月が欠ける時に用いると、様々な幸運に恵まれる」とマルボドゥスの《宝石誌》に記されています。

16世紀にはアントワーヌ・ミゾオ著の《月の秘密》という本に、ムーンストーンにまつわる面白い話が記されています。

ミゾオには旅行家の友人がいました。彼は当時のゴールド・ノーブル金貨ほどの大きさのムーンストーンを持っていて、「この石は月の満ち欠けに反応して、表面の白い斑点が大きくなったり小さくなったりする」ということを書き残しているのを知ります。

ミゾオは自分でも試したくなり、早速そのムーンストーンを友人に、1ヶ月だけの条件で借りることにしました。するとアラ不思議。最初はあわ粒ほどで石の丈夫にあった白い斑点が、徐々に大きくなりながら中央部に移動するではありませんか。丁度真ん中に来た時が1番大きく、その時が満月。そして月が欠け始めると粒は下の方へと移動し、だんだんと小さくなったのです。

そして、この不思議な石は後に、所有者から鑑識眼の優れた若き国王・エドワード6世に献上。王はこの石によって、多くのことを予知判断出来るようになったといい、生涯この石を大切にしたと締めくくられています。

このエドワード6世はヘンリー8世の子供で、エリザベス1世とは異母兄妹。エドワード8世は9歳で即位し、その6年後、15歳で亡くなりました。ミゾオが記したように、このエドワード6世に本当に優れた鑑識眼が備わっていたのだとしたら、それは父王・ヘンリー8世の影響が大きいでしょう。

ヘンリー8世は生涯、宝石に魅せられ、目映いばかりの宝石をその身に纏っていたとしてしられています。エドワード8世が亡き後、王位を継いだエリザベス1世もまた、月の影響を受けるとされた真珠を自身の象徴として、この上なく愛したとされています。