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フランスの大女優が御守としていたオパール

幻想的な輝きで魅了するオパール。日本人女性に大人気の宝石で、10月の誕生石でもあります。虹色の輝きが希望の象徴とされ、古くから《神の石》と呼ばれました。和名は蛋白石。

日本人が好きなオパールは遊色効果のある《プレシャス・オパール》ですが、遊色効果のない半透明の《コモン・オパール》や不透明な《オパライト》というものもあります。

オパールは欧州で一時、《不幸の石》とされた時代があります。原因は、英国貴族の作家スコット卿の著書である“ガイエルスタインのアン”という小説。主人公の少女と髪飾りのオパールに魔法にかけられ、彼女の感情にオパールの髪飾りが反応するといったもので、オパールに聖油かけて魔法が解けます。それが何故か不幸の石として広まり、ひどいケースではストーリー自体が全く違っていたとか。

さらに拍車をかけたのがオパールの性質でした。水分を含むオパールはとてもデリケート。扱い方を知らない購入者から業者への苦情が殺到し、業者自体もその扱いの困難さから加工に苦労しました。また、虹色に輝くオパール独特の遊色効果が、いつしか人の心の移り変わりに例えられたのです。

《不幸の石》時代のオパールを愛したひとりの女性がいます。アールヌーヴォを代表する画家、アルフォンス・ミュシャが描いたことでも有名なフランスの大女優サラ・ベルナール、その人です。

英国生まれで、オランダ系ユダヤ人の母と近所の頼りない学生だった父との間に生まれました。生活は貧しく、将来は修道院に入るのだと思い込むほどに辛い少女時代を過ごします。そんな彼女に芸能界入りを勧める人が現れます。サラは演劇学校で学び、劇団に所属しますが、施設劇場を点々とする日々。そんな中、ひとりのファンからサラに贈られたのがオパールでした。人生で初めて手にした宝石といわれてます。

美しくありながら、不幸の星の下に生まれ育ち、女優という希望に向かってひた走るサラ。変化自在の美しさ故に、不幸の象徴とされるオパール。サラはオパールに女優としての自分をみた気がしました。

不幸の石を常に身につけているサラに、周囲の人々は疑問を抱きますが、しかしサラにとってオパールは守護石でした。

オパールはついに、サラに幸福をもたらします。当たり役に巡り合い、一躍有名になった彼女は国際的女優に!劇団の看板女優となった彼女は、《椿姫》が代表作の、天性の美貌と黄金の声を持った女優として絶賛されました。

サラは新しい役を演じる度、その役に褒美を与えるようにオパールの数を増やしていきます。他の宝石も手に入れますが、それでも彼女が一番愛したのはオパール。サラのオパール好きは広く知れ渡り、彼女のトレードマークとなります。

自身で劇団を設立したサラは、贔屓にしていた宝石商のフーケとミュシャに、設立した年に演じることになった《クレオパトラ》の舞台で使用するオパールのブレスレットの製作を依頼。これをきっかけに、フーケとミュシャは宝飾デザイナーとして後世に名を残すことになります。

サラは片足を切断する事故に見舞われますが、それでも彼女は不屈の精神で女優を続けました。亡くなった時には、フランス国家がその功績を讃えて国葬を与えたほどに、サラは人々の心に刻まれた存在となっていました。

その後、サラの愛したオパールたちがどうなったのかは不明です。しかし、《クレオパトラのブレスレット》が1987年にジュネーブのオークションに登場。サラの死後64年が経っていました。これは大反響を呼び、かなりの高額で落札されました。

オパールの宝石言葉は《希望/無邪気/克己》。宝石のメッセージは《名誉の保護/心眼》です。

幸福の石?それとも不幸の石?サファイア

青く美しく、静かに輝く9月の誕生石・サファイア。実はその色彩は豊富で、無色・ピンク・ヴァイオレット・イエロー・グリーンなど様々。

宝石言葉は《徳望/誠実/貞操》。宝石のメッセージは《浮気封じ/信仰/高潔》です。

身につけることで健康を回復し、持ち主を裏切ろうとする者がいれば、その力を消失させて闘争心を消し、人との調和を高めてくれるといいます。邪念や色欲を消す効果があるので、聖職者や平和主義者が持つのに相応しいとされてます。不義者や好色者が持つと濁るとか。

そんなサファイアの中でも、特に高級なもののひとつに《スター・サファイア》があります。カボッション・カットの表面に、3本の光の筋が交錯して六条の光の星となって浮かび上がったものです。この三本の光の筋は《信頼》《希望》《運命》を表していて、運命の石として、またドイツでは勝利の石と信じられてました。ただその一方で、土星(サターン)に関連する《不幸の石》とした地域もありました。

サファイアには多くの伝説や逸話がありますが、ナポレオンと先妻・ジョセフィーヌにまつわる《皇帝の石》は有名です。

大聖堂を参拝に訪れたバツイチ子持ちのジョセフィーヌ妃に対し、職員たちが特別に秘宝のサファイアをみせたところ、このジョセフィーヌ、何を勘違いしたか「コレで結構よ!」と頷いたのです。驚いたのは職員。実はドイツ征服後にナポレオンに寺院側から聖遺品の中から何かを献上する約束になっていたため、結局は皇帝の命に従い、ジョセフィーヌにサファイアを献上することになります。

このサファイアはナポレオンが心酔するカール大帝の護符で、聖遺品としても特別なものでした。しかし、ジョセフィーヌは簡単な説明を聞いただけで、「大帝を尊敬してる夫が喜ぶ」という単純な思いだったのです。

こうして一度はナポレオンの手に渡った《世界を征服する石》でしたが、すぐに夫から妻への初めての贈り物となったのです。

実はこのジョセフィーヌ、かなりの浮気者で、ナポレオンは悩んでいたのです。愛する妻の浮気癖がなくなれば…そんな夫としての切実な思いがあったのです。その後、立場は逆転。夫は浮気性に、妻は良妻賢母に。サファイア、恐るべし。

ナポレオンとの間に子供を設けることのできなかったジョセフィーヌは精神的に追いつめられ、ついに離婚を決意。その時にでさえ、彼女は夫への愛情を示しました。これに感激したナポレオンは、別れる妻に出来る限りの生活環境を与えます。

ここが運命の分岐点となります。ナポレオンは若く新しい妻を迎え、子にも恵まれ、ローマ王に任命されます。しかし、その後はロシア侵攻に失敗。エルバ島へ幽閉され、妻はすぐさま母国へ逃げ帰ります。その後は夫がセント・ヘレナ島でその生涯を終えるまで、ただの一度も会いに行くことはありませんでした。人々は「ナポレオンが不幸になったのは皇帝の石を手放したからだ」と噂しました。

ナポレオン没後、その安否が気遣われたジョセフィーヌでしたが、「ナポレオンに捨てられた元王妃」に、反逆者・ナポレオンを憎む人々は同情しました。政府と連合軍は彼女を丁重に扱い、後に彼女の館にはロシア皇帝までもが訪れるほど華やかな場所となりました。ジョセフィーヌは何不自由なく過ごし、静かに息を引き取ってその生涯を終えました。

もしもナポレオンがあの時、《皇帝の石》を手放さなければ、歴史は大きく変わっていたかもしれません。

このサファイアはジョセフィーヌの娘から、様々な人へと受け継がれ、現在はフランス東北部にあるランスの大聖堂に納められています。

ちなみに、フランスのサファイアの宝石言葉は《後悔》です。

金との相性抜群!オリーブグリーンの宝石・ペリドット

オリーブグリーンの温かく優しい宝石・ペリドット。8月の誕生石で、和名を橄欖石といいます。7月の真っ赤な太陽が、8月には黄金の輝きに変わることから選ばれた宝石で、暗くなっても輝くことから、別名《イブニング・エメラルド》とも呼ばれます。

宝石言葉が《夫婦愛/夫婦の幸福/豊穣》。宝石のメッセージは《心の喜び/知恵の分別》です。エジプトの国石でもあります。

ペリドットは金がよく似合う宝石で、金細工を施したペリドットは実に美しいものです。その相性の良さから、ペリドットは金で細工したものを身につけると、その効果はより発揮されると信じられました。それがいつの頃からか「金細工で以外では効果がない」となり「金細工でなければ効果が減少してしまう」へと変化します。

しかし、ペリドットと金の組み合わせの効果は絶大で、金の台座にペリドットが嵌め込まれた指輪を身につければ、戦いに勇気を与え、夜の恐怖や血の汚れを取り除き、また、夫婦の和合や絆をより強いものにするとされました。

ペリドットと金は、“夫婦の如く相手を輝かせる”といわれ、宝石言葉の《夫婦の幸福》には持ち主の色欲を抑え、浮気を防ぐという意味が含まれています。これは中世からルネッサンス期の有名な神秘家や医師たちが「ペリドットには熱湯を冷ます効果がある」とこぞって記したことが起因になったいるんだとか。カッカと熱くなっている人の感情を冷まして落ち着かせる効果があると考えられたからなのです。夫婦関係も、互いに少し冷静な方が円満でいられますからね。

また、太陽のようにまばゆいペリドットは、太陽神崇拝の古代エジプトで非常に愛され、ファラオたちの王冠や装飾品を黄金とともにきらびやかに飾りました。

最古の百科事典といわれるプリニウスの《博物誌》によると、ペリドットをエジプトに最初に伝えたのは、皇帝プトレマイオス2世に総督に任命されたフィロ。

彼はこのペリドットを皇帝の母后・ペレニス王女に献上。すると彼女は非常に喜び、皇帝もまた非常に感激したそうです。その後、愛妃・アルシノエのために高さ2mもある像を建てました。この像は、アルシノエの名に由来する《アルシノエイム》と名のついた黄金の寺院の神殿に奉納されました。

この話はプリニウスが記している、ペリドットにまつわる有名な話で、史上最も古いペリドットと夫婦の話。後に“色欲・浮気を防止する”という石の効果や、宝石言葉の“夫婦の幸福”のベースになったともいわれています。ペリドットはエジプトの象徴であり、その王と王妃の愛情と結びついたのは、自然なことなのかもしれません。しかし、この石が何だったのかは実は不明で、玉随という説が有力視されてます。

プトレマイオス2世の父・プトレマイオス・ソテルはアレクサンドロ大王亡き後、その遺体を引き取って埋葬しました。プトレマイオスはアレクサンドロ大王には後継ぎがなかったため、その後を継いで、プトレマイオス1世としてエジプトの統治します。これがプトレマイオス王朝の誕生です。この王朝こそ、あのクレオパトラが生きた王朝なのです。

プトレマイオス王朝はクレオパトラ7世で終止符を打ちました。クレオパトラもまた宝石を愛した女王で、エメラルドや真珠などの宝石にまつわる伝説を残していますが、ペリドットもまた、彼女が愛した宝石でした。王朝最初の王妃から最後の女王まで愛された宝石です。プトレマイオス王朝の王や王妃の冠を飾ったペリドットでしたが、十字軍によって欧州へ持ち去られ、黄金とともに教会などに献上されました。現在、ドイツのケルン大聖堂には200カラット以上のペリドットが飾られています。

情熱の炎の象徴・ルビーは実はサファイアの仲間!?

鮮やかで華やかな赤い輝きを放つルビーは、情熱の炎の象徴。そんなルビーが、静かな蒼い輝きを放つサファイアの仲間といったら、驚きますか?

鉱物上、ルビーもサファイアも全く同じコランダム(酸化アルミニウム)の結晶です。赤い色のものをルビー、青を含むそれ以外の色をサファイアと呼びます。硬度が非常に高く、ダイヤモンドに続いて9という硬さ。

ピンク色のものを《ピンク・ルビー》と呼ぶこともあるのですが、《ピンク・サファイア》とも呼べるわけでして…ルビーの赤とサファイアのピンクの境目については、宝石業界でも頻繁に問題となっています。

カボッション・カットにしたルビーの中には、六条の光の筋が浮かび上がることがあり、これは《スター・ルビー》といって普通のルビーが女石と呼ばれるのに対し、男石と呼ばれる貴重なもので高い価値がつけられます。また、《ピジョン・ブラット》と呼ばれる僅かに紫がかったルビーが最上級品とされていますが、その名の意味は《鳩の血》…ちょっと怖い名前ですね。

ルビーは遥か昔、ローマでは“カルブンクルス”、ギリシャでは“アンスラックス”と呼ばれた宝石で、どちらも“燃える石炭”という意味。ローマの人々がカルブンクルスと呼んでいたのはルビーだけではありませんでした。赤い宝石はすべて、カルブンクルスと呼称されていました。やがて英語でも“カーバンクル”と呼ばれるようになり、同様に赤い宝石のことを示しました。

カーバンクルは伝説上の生物もしくは妖精としても知られている名前で、額に大粒のルビーもしくはガーネットなどの深紅の宝石を持っていて、これを手に入れることが出来れば、富と名声が手に入るとか願い事が叶うなどの言い伝えがあります。実際にカーバンクルを求めて探索に出た冒険家の話もたくさんありますが、成功例はひとつもありません。ルビーやガーネットそのものにも、こうした持ち主に富と名声を与える話があるので、ここから妖精伝説も発祥したとも考えられます。

ルビーとガーネットは、見た目が類似している宝石ですが、従順なガーネットと違い、ルビーは積極的なエネルギーを持った宝石です。そのわかりやすい言い伝えとして、「ルビーは身体の右側に付けないと効果を発揮しない」というものがあります。身体を右・左に分けた時、右が働きかける側で、左が受け取る側となるという意味の表れでしょう。

また、西洋ではローマ・ギリシャ神話の炎と戦いの象徴である軍神・マルスと結びつけられ、ルビーは宝石の中でも特に強力な力を持つとされています。

14世紀には「ルビーはあらゆる危険や禍いから身を護ってくれ、平和と安泰をもたらす宝石であるが、指輪・腕輪・ブローチなど身体の右側につけなくてはいけない」と著書で述べた旅行家がおり、それは当然のように信じられていたため、当時の王族男子の肖像画では、ルビーなのか、はたまたガーネットかスピネルかは定かではありませんが、赤い宝石は必ず身体の右側に描かれています。

7月の誕生石であるルビーの宝石言葉は《情熱/仁愛/威厳》。宝石のメッセージは《トラブル/神力・悪魔払い》です。和名はその鮮やかな赤色に相応しく、紅玉。

実は20世紀初頭に、宝石業者によって国ごとに誕生石が選定されるまでは、多くの国々でルビーは12月の誕生石でした。燃えたぎる炎のイメージであるルビーに、じっと春を待ちわびる情熱の冬の象徴としていたのです。

厳密には宝石じゃない?海が育む月のシンボル・真珠

ダイヤモンドが太陽のシンボルなら、真珠は月のシンボル。真珠は月の力が宿る宝石とされてきました。

三大宝石や五大宝石に数えられる真珠ですが、実際には有機質。無機質である他の宝石と比較すると、厳密に宝石ではありません。それでも人々は、月の影響を受ける潮の満ち引きと女性の月経や出産の生命への関わりと、月の影響を受ける潮の中で育まれる真珠を重ね合わせ、その中で生まれる真珠を《月の雫》として尊んだのです。

優雅で気品溢れるその姿は、他の宝石にはない独特の美しさで人々を魅了しました。海という大自然の中で育まれた月の雫は、一級品の宝石として大切にされ続けたのです。

真珠は貝の中に入った異物を、貝自身が自らの分泌物で幾重にも包み込んで出来上がったもの。自らの痛みや苦しみを美しい光の粒に変えていく真珠に、人々は苦難や悲しみを喜びに変えていく女性の辛抱強い姿を重ねました。真珠は女性のシンボルとして崇められ、気品と心や財の富の象徴とされたのです。運がいい→ツキがいい。人も真珠も月(ツキ)に左右されるという、まあ語呂合わせが一説にあります。

己の痛みを美しい輝きの希望に変える真珠は、富と健康の象徴でもあります。月の支配を受けることから、妊婦の安産御守とされていて、女性特有の生理不順や生理痛の悩みの解消にも効果を発揮します。また、長寿の御守としても有名です。

実はこの真珠、自然界から美しい形のものを採取することが非常に困難な代物。宝石としての価値が高い美しい形状のものがなかなか採れないことが難点でした。

そこで生まれたのが養殖技術で、この技術が優れているのが我が国・日本。1893年、貝に人工的に異物を入れ、貝に天然真珠と同じような形成作用を起こさせる技術を開発したのです。現在、宝石市場で出回っている真珠のほとんどは養殖技術で誕生したもので、世界の養殖真珠の90%は日本が産出したもの。真珠が日本を代表する宝石とされている所以です。

養殖の方法は2通りあり、ひとつは海女が採った天然の貝に核を挿入して再び海に沈め、真珠層が出来るの待つ方法。もうひとつはアコヤ貝を稚貝から母貝に育てる方法。核となる異物が人工的なものか、貝の中に自然に入ったかの違いだけで、形成そのものは全く同じなので、外観上で判断することは専門家でも困難です。養殖真珠には以下の種類があります。

・アコヤ真珠

母貝はアコヤ貝。日本ではほとんどがこの養殖法のため、南洋玉に対して《和玉》と呼ばれます。

・南洋真珠

真珠層を作ることができる貝は約30種で、その中で最も大きな真珠玉を作れるのが南洋の白蝶貝。アコヤ貝養殖法が軌道に乗ると同時にその技術を応用し、1928年にセレベス島付近で大粒の真円真珠を生み出したのが始まり。南洋真珠は加工を施さないので、その品質が長年持続することで人気を集めてます。

・黒真珠

黒蝶貝が母貝。孔雀の羽色のものは《ビーコック・グリーン》と呼ばれる最高級品。アコヤ貝真珠の1%ほどしか採れないため、希少価値が高いのが特徴です。少ない産出量の80%はタヒチやフィジー。、日本では唯一、沖縄の養殖場で産出されています。

・淡水真珠

イケチョウ貝やカラス貝が母貝。霞が浦や琵琶湖で養殖されています。核ではなく、他のイケチョウ貝の肉片を入れます。ひとつの貝に20〜30片ほどの肉片を入れることが可能で、平状・米粒状のものなど変則的なものが採れます。色も豊富で、ホワイト・クリーム・ピンク・グレー・シルバー・ゴールド・イエローなど多彩。

真珠は6月の誕生石。宝石言葉は《富と健康/長寿》。宝石のメッセージは《処女のシンボル/芸術的センスの増強》です。

絶世の美女クレオパトラに愛されたエメラルド

《エメラルドグリーン》という言葉の通り、新緑を思わせるエメラルドは、まさに5月の誕生石に相応しい宝石です。ベリル(緑柱石)という種類に分類される緑色の鉱物で、和名は翠玉もしくは緑玉。

宝石言葉は《幸運/夫婦愛》。宝石のメッセージは《視力の回復/裁判に勝つ》です。

エメラルドは、妻が持つと憂鬱な心から解き放ち、愛情を深めて貞節を尽くし、幸せになるといわれています。不貞や不誠実を嫌う宝石で、壊れやすいといわれています。もしも身につけているエメラルドが壊れたり、紛失した時には何かのシグナルかも…。

エメラルドには眼や心眼に関する言い伝えが多く、エメラルドを水に浸してその水で眼を洗うと、視力が強くなったり、眼病から回復させるといった話も。また、あのローマ帝国の暴君・ネロは未来を予知するためにエメラルドのサングラスを愛用していたという話があります。

絶世の美女として知られるクレオパトラに愛された宝石としても有名で、彼女は過剰なまでにエメラルドを愛し、エメラルドの鉱山まで持っていました。しかしそのクレオパトラ、実は絶世の美女というわけでもなく、魅力的な瞳を持っていたため、その瞳の力で男性たちを魅了していたという説もあり、その瞳の魅力はエメラルドの力だったとも…。アラブ系の人々の瞳が美しいのも、エメラルドの愛好家が多いからだとか。

その色合いから緑を甦らせる再生力のシンボルとされる女神《ヴィーナスへ捧げる石》でもあります。

ソロモン王の伝説には、神から四方を表した宝石を授かったり、世の中を統治したといわれていて、その時に授かったのが《ルビー/ラピスラズリ/トパーズ/エメラルド》だったといわれています。また、昔のヒンズー教の高僧たちには「完璧なエメラルドはあらゆる毒に効果があり、人間の罪も清める力がある」と信じられていました。さらにキリストと聖ヨハネにまつわるエメラルドの聖杯など、神聖な伝説が多く残されています。

さらに世界三大宝石(ダイヤモンド/エメラルド/パール)、五大宝石(ダイヤモンド/エメラルド/サファイア/ルビー/パール)、七大宝石(ダイヤモンド/エメラルド/サファイア/ルビー/翡翠/アレキサンドライト/キャッツアイ)すべてにダイヤモンドとエメラルドだけが含まれている点からみても、貴重な宝石だということがわかります。

「人間とエメラルドには傷がないものはない」といわれ、“石れい”と呼ばれる内包物や表面に細かい傷が入っているのがほとんど。肉眼でもわかるレベルのものですが、その美しさを損なわせるようなものは別として、内包物や傷こそが本物である証でもあります。

その一方で、エメラルドは一定の方向に筋が入っている“劈開性”という性質を持っていて、特定の方向に力を加えるとスパッと割れてしまう壊れやすい難点も。その性質を生かしたカットが、《エメラルド・カット》。ベリル宝石特有の結晶を効率よく、そして美しく仕上げる長方形や正方形のカットです。

インカ帝国は金の宝庫であり、エメラルドの宝庫でもありました。ところが、インカ帝国を征服したスペイン人たちはエメラルドを知らなかったためその美しさを疑い、先住民たちから取り上げた膨大なエメラルドに、その真偽を確かめるためのハンマーを打ったのです。「本当のダイヤモンドはどんな強打にも耐える」という、ローマ人の誤解に捕らわれていたためです。結果がどうなったかは、もうおわかりでしょう。

インカ帝国を支配したことから、エメラルドはスペインの国石となります。当時、《スペインのエメラルド》は高級エメラルドの代名詞でした。ペルーやコロンビアの国石でもあります。

ダイヤモンドが愛の証とされるのは何故?

多くの国々で4月の誕生石として選定されている宝石・ダイヤモンド。和名を金剛石といいます。

宝石言葉は《永遠の絆・清純無垢》。宝石のメッセージは《不滅/恋の勇気と勝利/潜在意識を引き出す》です。

地球に存在するどの物質よりも硬く、虹色の美しい輝きを放つダイヤモンドには、《永遠の絆を護ってくれる》《悪霊を祓い、勝利へ導く》《潜在能力を引き出してくれる》《敵に打ち勝つ力を与えてくれる》など、持ち主に幸運を呼び込む宝石といいます。

これらにあやかって、ダイヤモンドは婚約指輪に選ばれる宝石で、もっとも美しい輝きを放つプロポーションのラウンド・ブリリアンカットが人気No.1。不変の愛と絆と幸福の象徴として、結ばれた者たちを永遠に護り続けると信じられているのです。

そんなダイヤモンドですが、身につけるには資格が必要だと古来より多くの人々によって伝えられています。《心の資格》です。正しい心・正しい立場の人が持てば、ダイヤモンドはありとあらゆる禍いを避け、幸運をもたらすと考えられていたのです。

他の宝石にも持ち主としての資格を問う資質を持った宝石はありますが、特にダイヤモンドにはこのような逸話や伝説が多く残っています。

ダイヤモンドが婚約指輪に選ばれる理由は、その硬さにあやかった《不滅・永遠の愛》が一般的に知られている縁起なのですが、昔は男性が身体の左側につけると、逞しい体躯になり、闘いに勝利することが出来るといわれていた、男性のための石でした。

女性が婚約指輪として左の薬指に嵌めるようになったのは、「愛の血管は心臓から左の薬指に向かって真っ直ぐに伸びている」という古代ギリシャの言い伝えからきているものです。

一方で、ダイヤモンドは《君子の象徴》。淫らな心を持った人や自制心のない人が持つと、途端、その力は効力を失うだけでなく、持ち主をマイナスへと導きます。これはダイヤモンド独特の性質です。せっかく手に入れたのに、不幸になってしまった話も珍しくありません。それほどにダイヤモンドは気位が高く、持ち主を選ぶのです。ミャンマーではダイヤモンドも砒素も“チェイン”と呼びます。まさに薬か毒か…その人の心持ちでどちらにも転ぶ、紙一重の宝石なのです。

歴史に関わったダイヤモンドは多く、それらには歴史上の事件に関わったものや、地名やイメージを誇張したり、讃辞や賞賛を表した名が付いてるものも多くあります。これらは現在でも、世界中の国・王室や博物館、個人の元で所蔵されています。

持ち主を不幸にするという呪いの青いダイヤモンド《ホープ》やマリー・アントワネットを巻き込んだ詐欺事件の元となった《王妃の首飾り》はあまりにも有名です。

ダイヤモンドを国石としている英国の王室には《コ・イ・ヌール》という名の大きなダイヤモンドが所蔵されています。これは歴史上で最も大きな宝石略奪事件を引き起こしました。ムガール帝国所有だったこのダイヤモンドは、ペルシャ王の策略によって略奪され、その後は血塗られた悲劇を繰り返しながら持ち主を点々とします。最終的には東インド会社の手に渡り、ヴィクトリア女王へと献上されました。

持ち主に闇をもたらしたコ・イ・ヌールは、不思議と女性には幸運をもたらすと信じられていて、ヴィクトリア女王は「女王もしくは王妃のみが身につけるように」と遺言した説もあります。実際に、ヴィクトリア女王亡き後、コ・イ・ヌールは代々皇太子妃に受け継がれて、ジョージ6世の戴冠式の時に、妻のエリザベス1世の時に王冠へと移されました。その王冠は現在、厳重な警備体制の下、ロンドン塔の王室コレクション展示室にて管理されています。

【夜の宝石の女王様】と呼ばれるアクアマリン

美しい海をイメージさせるアクアマリン。和名を藍玉石といいます。鉱物としてはベリル(緑柱石)というエメラルドの仲間。海色のものをアクアマリンと呼びます。地中海の海の色に似ているため、欧州、特に英国人はこの宝石を好むといいます。

別称に、優しく穏やかな雰囲気から想像のつかない【夜の宝石の女王様】という名がついてます。

アクアマリンは昼の光の中ではとても穏やかで優しい輝きを纏っていますが、しかし夜、シャンデリアの光を浴びると一段と美しい輝きを放ちます。故に、パーティ好きな貴婦人たちに特に愛されました。なので【夜の宝石の女王様】。

アクアマリンは海を象徴する宝石で、海の妖精や人魚に結びつけられます。海の妖精の宝物が砂浜に打ち上げられて宝石になった話や、船乗りに恋をした人魚が流した涙だ宝石となって浜辺に打ち上げられ、それを拾った船乗りが御守にした話もあります。それにも由来するのか、航海・海難防止の守護石とされ、船乗りの御守石といわれています。

アクアマリンはその透明感と海のイメージから、人間の精神的な深い部分を連想させ、その深層に巣食おうとする悪魔を退治する、また未来を予測する宝石として信じられていました。また、水に浸してその水で眼を洗うと視力が強まる・眼病が治癒するという話や呪いに関する話など、不思議なほど多くの伝説もあります。

このアクアマリンに異常なまでに執着した歴史的人物がロシア歴史上で“大帝”として名を残す女帝・エカテリーナ二世。実は彼女、ロシア人の血を一滴も持たないロシア皇帝なんです!

ドイツの小国の公女して誕生したエカテリーナは、16歳で時のロシアの女帝・エリザヴェータの甥であるピョートル三世と結婚。母はロシア人・父はドイツ人のピョートルは青年時代をドイツで過ごした影響で、異常なほどプロイセンのフリードリヒ二世を崇拝。それが国益に反するとして、即位から僅か半年でクーデター軍によって殺害されます。その後継者がエカテリーナだったのです。

エカテリーナは領土を拡大し、工業化発展に尽くします。こうして農奴制が拡大する中で、貴族文化が開花していきます。現エルミタージュ美術館である冬宮やエカテリー宮殿の華やかな宮廷生活は宝飾文化の開花の象徴でもありました。

ウラルに開拓した鉱山からは宝石以外に鉄も産出しました。鉄の産出量は世界一を誇り、欧州全土に輸出される鉄は、国を豊かにする財源でした。

現スベルドロフスクはこの頃はエカテリンベルクという名前で、その名の通り、エカテリーナが数千人の鉱夫に採掘させた鉱山として有名で、この鉱山からは、豊富なアメジストやトパーズと一緒にアクアマリンも多く採出されました。

一方で、エカテリーナは10とも20ともいわれる愛人をはべらせてたとか。「政治と恋愛は別物」とはっきり区別していたそうで、打算的で身勝手な印象があります。

実はエカテリーナは世界の皇帝の中でも無類の宝石愛好家としても有名で、ロシアの宝物館の豪華絢爛な大宝石コレクションがそれを物語っています。その中で最も愛したのは、意外にもアクアマリンとアメジストでした。

アクアマリンは人生の航海を護り、アメジストは人生の悪酔いを防止します。

権力の頂上で思うままに生きた女帝・エカテリーナ二世。16歳で故郷を離れ、結婚後半年で未亡人となった彼女は心から信頼出来る者もなく、孤高で孤独な女性だったのかもしれません。その虚しさ故に、男性と恋愛を繰り返し、宝石の神秘の力に魅入られてすがりついていたのでしょう…。

アクアマリンは3月の誕生石。宝石言葉は《沈着・聡明》。宝石のメッセージは《不老/航海・海難防止》です。

高貴と信仰の象徴・アメジストは悪酔いも防いでくれるんです

実はアメジストは水晶の仲間。和名は“紫水晶”で、2月の誕生石でもあります。

アメジストは悪酔いを防げるといわれています。男性のネクタイピンやカフスボタンに頻繁に用いられるのが多いのは、こうした意味もあるのでしょう。

キリスト教に於いては、この悪酔いには人生も含まれ、人生の悪酔いを避けたい聖職者たちにも関連づけられ、高貴な《司教の石》として指輪が嵌められるようにもなりました。

これらの背景には、ローマ・ギリシャ神話伝説があります。

酒と豊穣の神・バッカスは悪戯が過ぎることで神々を悩ませていました。そしてその家来・バッケーたちは豹の姿で酔いしれる、善悪の判断が出来ない者たち。しかし、葡萄酒作りには長けていました。

ある日、バッケーたちのことで神々に叱りを受けたバッカスは、腹いせに恐ろしいことを思いつきます。「これから出会う最初の人間をバッケーたちに食いちぎらせてやろう」と…。

バッカスは月の女神・ディアナの神殿の前を通りかかった時、ディアナに仕えるニンフ(妖精)のアメジストの姿をみつけます。アメジストは信仰が深く、神々の自慢でもありました。

「ちょうどいい。私の家来の方が強いということを見せてやろう!」

バッカスはバッケーたちにアメジストを襲わせ、彼女は必死の思いで叫びました。

「ディアナ様ーっ!!」

瞬間、アメジストの身体はみるみると小さくなり、小さな美しい水晶に変わってしまいました。その姿の美しさにバッカスは正気に戻り、同時に自分の冒した罪の深さにその身を震わせて立ち尽くします。

「私の葡萄の実は未来永劫、アメジストへの懺悔となろう!」

そう叫びながら葡萄酒を水晶に注ぎました。するとどうでしょう!その美しい水晶は美しい紫色に染まっていったのです。アメジストの美しさに正気に戻ったバッカスの懺悔に、バッケーたちも狂気の酔いから醒めます。それからは彼らもバッカスの良い家来として葡萄酒作りに専念します。バッカスの行く先々には酒と豊穣の実りがあり、人々を喜ばせました。

宝石となったアメジストもまた、信仰のシンボルとして伝説となり、悪酔いからも醒めさせるとの伝説が生まれました。

豊穣には奉納の歌舞行事がつきもの。実はバッカスは演劇の神でもあり、アメジストは演劇関係者にも強い味方なんです。

この神話は16〜17世紀にかけて流行し、アメジストは《聖なる石》としてさらに人々を魅了しました。そのアメジストの精神を愛した一人の宮廷画家のお話もしましょう。

スペイン宮廷画家の名はベラスケス。多彩だった彼はこのアメジストの精神の如く、才能に溺れず、周囲の甘い誘惑にも惑わされず、時の王・フェリペに尽くし、王も彼の真摯さと才能を愛しました。やがて衣装係、さらに王室配室長と昇進したベラスケスは、王のために、アメジストで出来た一粒の葡萄の実が金とエメラルドの王冠を被っている宝石を王宮の宝石職人に作らせます。しかし彼はその完成を見ることなくこの世を去ります。宝石の完成は彼の死後、数ヶ月後のことでした。

王はベラスケスの生まれ変わりのように生まれてきた息子・カルロス二世にその宝石を譲った後、ベラスケスの後を追うようにこの世を去りました。

4歳で王位を継承したカルロス二世は、叔父であり義兄でもある、神聖ローマ皇帝レオポルト一世にこのアメジストを贈ります。こうして信仰のアメジストは深い信仰と豊穣をもたらしながら、ハプスブルク家に代々受け継がれていくことになります。

現在、ウィーンの美術史美術館所蔵となっています。

アメジストの宝石言葉は《誠実、心の平和/仏:真実》。宝石のメッセージは《何事にも用心/人生の悪酔いを排除》です。

深紅色だけじゃない!色彩豊富なガーネット

“紅榴石”という和名のがあるように、ガーネットといえば、深紅色を思い浮かべるでしょう?

このガーネット。実は色彩豊富な宝石なんです!

【アルマディン・ガーネット】

最も貴重で最も知られている、一般的にイメージされる暗赤もしくは濃赤のガーネットです。“アルマンダイト・ガーネット”ともいいます。特に上質なのはミャンマーのシリアンという町の鉱山から採れるもの。欧州では“シリアン・ガーネット”と呼ばれてます。またスリランカからも多く産出され、これは“セイロン・ルビー”と呼ばれています。

色によっても呼び名があり、ブラウンがかったものを“メルヴェイユ”、赤に青が入り混じったものを“オリエンタル・ガーネット”と呼んだり。

さらにカボッションに磨いたものを“カーバンクル”と呼ぶなど、アルマディン・ガーネットは呼び名が多いのも特徴です。

また、アルマディンの中には四条の星を持つ“スター・ガーネット”という神秘的なものもあります。

【パイローブ・ガーネット】

赤色が一般的。ルビーよりも暗いのが特徴なのですが、ルビーに似ていることから、名前には“アリゾナ・ルビー”や“ケープ・ルビー”など、産地名の後にルビーとつけられています。

【ロードライト・ガーネット】

赤紫の魅惑的な色が素敵です。アルマディンよりも少し明るめでパイローブよりは暗め。“パイロ・アルマディン”とも。帝政ロシアの象徴石とされていました。ロードライトの語源はギリシャ語の“ロードン/薔薇”です。

【グロッシュラーライト・ガーネット】

グーズベリー(西洋スグリ)似ているためこの名前がつきました。黄緑色のガーネットのことです。鉄分の含有量によって薄い緑色や黄色になるため多彩。透明と半透明のものがあるのも特徴。

透明のものには“ヘソナイト”と呼ばれるものがあり、黄色・橙色・赤褐色などニッケイに似ていることから、“シナモン・ストーン”と呼ばれます。赤みが強いものは古い呼び名である“ジャシンス(ヒヤシンス)”と呼ばれることも。

“透明グロッシュラーライト”と呼ばれる種類もあり、白・黄・茶・緑・クロム・ゴールドなど、色彩が豊富。特に緑色は産地の東アフリカの国立公園から名前を取って“ツァボライト”とも呼ばれます。

“半透明グロッシュラーライト”は緑色とピンクのガーネットです。南アフリカのトランスバードで産出されます。緑色のものは翡翠の代用とされるため、“南アフリカジェード”や“トランスバード・ジェード”とも。

【アンドラライト・ガーネット】

黒柘榴石とも呼ばれます。1番高価なガーネットで、ダイヤモンドを語源と知る名前で呼ばれる“デマントイド”は緑色の美しい石。“ウラル・エメラルド”とも。

“メラナイト”と呼ばれる透明の黒い石は、喪中の装飾品に使われます。

“イエロー・アンドラライト”はトパーズに似ていることから“トパーゾライト”という別名があります。また黄色に薄緑がかったものは“オリーブ・ガーネット”と呼ばれます。

【スペサルタイト・ガーネット】

ヘソナイトとよく似た色合い。橙赤色・帯紫赤色・帯赤褐色などがあります。

【ウバロバイト・ガーネット】

ロシアのウラル地方の砂金産出川で発見。エメラルド・グリーンの美しいガーネットです。他の地でも産出されていますが、結晶が小さすぎるため、宝飾品には不向きです。

ルビーとも間違えられやすいガーネットですが、絶対的な違いは持ち主に対して忠実な愛情を示し、正しい願い事に対しては無条件に力を貸してくれること。

宝石言葉は《貞節、真実、貞操、忠実、友愛》。ガーネットのメッセージは《あなたに忠実でいたい/変わらぬ思い》です。

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