オリーブグリーンの温かく優しい宝石・ペリドット。8月の誕生石で、和名を橄欖石といいます。7月の真っ赤な太陽が、8月には黄金の輝きに変わることから選ばれた宝石で、暗くなっても輝くことから、別名《イブニング・エメラルド》とも呼ばれます。

宝石言葉が《夫婦愛/夫婦の幸福/豊穣》。宝石のメッセージは《心の喜び/知恵の分別》です。エジプトの国石でもあります。

ペリドットは金がよく似合う宝石で、金細工を施したペリドットは実に美しいものです。その相性の良さから、ペリドットは金で細工したものを身につけると、その効果はより発揮されると信じられました。それがいつの頃からか「金細工で以外では効果がない」となり「金細工でなければ効果が減少してしまう」へと変化します。

しかし、ペリドットと金の組み合わせの効果は絶大で、金の台座にペリドットが嵌め込まれた指輪を身につければ、戦いに勇気を与え、夜の恐怖や血の汚れを取り除き、また、夫婦の和合や絆をより強いものにするとされました。

ペリドットと金は、“夫婦の如く相手を輝かせる”といわれ、宝石言葉の《夫婦の幸福》には持ち主の色欲を抑え、浮気を防ぐという意味が含まれています。これは中世からルネッサンス期の有名な神秘家や医師たちが「ペリドットには熱湯を冷ます効果がある」とこぞって記したことが起因になったいるんだとか。カッカと熱くなっている人の感情を冷まして落ち着かせる効果があると考えられたからなのです。夫婦関係も、互いに少し冷静な方が円満でいられますからね。

また、太陽のようにまばゆいペリドットは、太陽神崇拝の古代エジプトで非常に愛され、ファラオたちの王冠や装飾品を黄金とともにきらびやかに飾りました。

最古の百科事典といわれるプリニウスの《博物誌》によると、ペリドットをエジプトに最初に伝えたのは、皇帝プトレマイオス2世に総督に任命されたフィロ。

彼はこのペリドットを皇帝の母后・ペレニス王女に献上。すると彼女は非常に喜び、皇帝もまた非常に感激したそうです。その後、愛妃・アルシノエのために高さ2mもある像を建てました。この像は、アルシノエの名に由来する《アルシノエイム》と名のついた黄金の寺院の神殿に奉納されました。

この話はプリニウスが記している、ペリドットにまつわる有名な話で、史上最も古いペリドットと夫婦の話。後に“色欲・浮気を防止する”という石の効果や、宝石言葉の“夫婦の幸福”のベースになったともいわれています。ペリドットはエジプトの象徴であり、その王と王妃の愛情と結びついたのは、自然なことなのかもしれません。しかし、この石が何だったのかは実は不明で、玉随という説が有力視されてます。

プトレマイオス2世の父・プトレマイオス・ソテルはアレクサンドロ大王亡き後、その遺体を引き取って埋葬しました。プトレマイオスはアレクサンドロ大王には後継ぎがなかったため、その後を継いで、プトレマイオス1世としてエジプトの統治します。これがプトレマイオス王朝の誕生です。この王朝こそ、あのクレオパトラが生きた王朝なのです。

プトレマイオス王朝はクレオパトラ7世で終止符を打ちました。クレオパトラもまた宝石を愛した女王で、エメラルドや真珠などの宝石にまつわる伝説を残していますが、ペリドットもまた、彼女が愛した宝石でした。王朝最初の王妃から最後の女王まで愛された宝石です。プトレマイオス王朝の王や王妃の冠を飾ったペリドットでしたが、十字軍によって欧州へ持ち去られ、黄金とともに教会などに献上されました。現在、ドイツのケルン大聖堂には200カラット以上のペリドットが飾られています。